【元マラソンランナー増田明美さんのコメントに泣いた クイーンズ女子駅伝】

文化スポーツライターキリンコ

【元マラソンランナー増田明美さんのコメントに泣いた クイーンズ女子駅伝】

 10月にあった陸上大会の5000m女子で、ケニア選手が圧倒していた。最後までフォームの乱れないきれいな走りに、やはりアフリカ選手は違うなあと感心したけれど、タイムを確認したら日本記録はそれより30秒以上速かった。そんな世界とも戦える力を持つ一人が新谷仁美選手。当日ペースメーカーとしてではあったが、オリンピック以来久しぶりのレース参加となった。

 2019年の暮れ、新谷選手は10000mで日本記録を大幅に更新し、オリンピックでの期待がふくらんだ。メディアへの露出も増えたけれど、時を同じくしてコロナが世界の色をどんどん変えていった。

 元々「走るのは嫌い。仕事だから走っているだけ」とドキッとするような発言をしていた新谷選手。でもその言葉は「走ることが目的じゃない。何かのために走りたい」という意思表示に見えた。その「何か」が「人に求められること」だったのなら、オリンピック反対の声が高まるにつれ、心身に不調をきたしたのも頷ける。

 苦しさを隠さず見せる彼女の姿には、なぜかいつも惹きつけられた。苦しむことから逃げない姿勢は、練習で誰も声をかけられないほどピリピリするという競技姿勢とも重なった。本気で生きる姿を見せる。スポーツの持つ魅力の一つを、彼女は体現しているように思う。

 オリンピック本番では自身の持つ記録より2分も遅いタイムだった。「消えたい」と話すほどの傷を抱え、今も涙は止まらず、練習をすれば過呼吸になるという。それでも「前を向くには走りで結果を残すしかない」と今日、日本一を決めるクイーンズ駅伝に出走。区間記録より40秒速いタイムで駆け抜け、チームの初優勝を確実なものにした。

 もう耐えられないと感じるほどの苦しみの中でも人は生き続けられる。スポーツは私にとって、人間が本来持つ強さを確認させてくれるものの一つだ。「虹が出てますよ。苦しい思いをした選手たちを祝福するような」駅伝の中継の最後に入った増田明美さんのコメントに、不覚にも泣いた。

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