【車いすラグビー 「ライバルはオーストラリア 」は嘘だったのか

文化人スポーツライター キリンコ登場

 「最大のライバルはオーストラリア」そう口をそろえる選手たちを見て、私たち、にわか車いすラグビーファンは「オーストラリアに勝てば金メダル」と思い込んでしまっていた。2019年に初めて車いすラグビーを生観戦した時も、オリンピック連覇中のオーストラリアの大きさ強さは目を引いた。ところが今回、日本もオーストラリアも準決勝敗退。それも接戦とは言いづらい点差だった。
 「あれ?」東京2020オリパラでは、同じような感覚を何度か味わった。パンデミックによる延期、そして国際試合を経験できなかった1年半の間に、多くの競技の世界地図が微妙に変わっていたのだろうか。なんだか肩透かしを食らったような…そんな思いがストンと消えたのは、3位決定戦の後のインタビューを聞いた時だった。

 「金メダルだけを狙ってきた。銅メダルは応援してくれる人のためにとった」と池選手は言った。こんな風に言い切れるのは日本にそう多くはない、世界のトップアスリートだけだ。「負けたけれど感動した」そんなファンの声と自分たちの思いをスパッと切り分けて3位決定戦を勝ち切った彼らは、世界から優勝候補として対策される、まさに一流の選手たちだった。池、池崎、島川選手はアメリカのリーグでプレイし、他の選手たちも国際試合で経験を積んでいる。今回経験不足だったのは、間違いなく私たちにわかファンだった。
 池選手は交通事故で障害を負った。車が炎上する大事故で、左足だけでなく、3人の友人も失ったと聞く。そこから世界トップという位置にたどりつくまでの苦しみを、私たちが想像すべきかといえばそれは違う。彼らが乗り越えてきたものが大きいからこそ自分自身を信じてできるタックル、仲間を信じてできる、麻痺した腕でギリギリに通すパスに、ただただ圧倒されればいいんだと思う。
 2019年のラグビーワールドカップで誕生したにわかファンの多くはそのままラグビーファンとして残り、今年から始まる新リーグ「リーグワン」を支えているらしい。さて、車いすラグビーにわかはどうだろう? 会場で車いすのぶつかる焦げ臭いにおいをかぎながら「フォーインザキー!」などと知った顔でファウルを叫ぶ日は、来るだろうか?

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