何万回ものラリーで掴む93連勝〜パラバドミントン梶原選手〜

文化スポーツライターキリンコ

何万回ものラリーで掴む93連勝 〜パラバドミントン梶原選手〜

連日の異様な夏日から突然冬になった週末、代々木体育館の入り口は防寒のため閉められていた。近づくとスタッフが「寒い中ようこそ」と開けてくれる。アマチュアスポーツの大会にありがちな、観客の声援の一つひとつが空間に響いてしまう広い会場で、金メダリストは公式戦93連勝をかけて決勝戦にのぞんでいた。

 

梶原大輝選手。東京パラで金メダルをとったパラバドミントン選手だ。しかもその時から公式戦での負けなしを継続中だという。もちろん世界ランクは1位。自国開催のこのヒューリックダイハツ国際大会でも、スピードやパワーで他選手を圧倒するのだろうかと見始めた決勝戦は、想像とは全く別物の「ガマン」の応酬だった。

 

大会序盤は相手を寄せ付けない内容だったが、決勝の相手は世界ランク3位、試合巧者の香港CHAN Ho Yuen選手だ。車いすバドミントンではコート片面のサービスラインより後ろがプレイゾーンになる。互いにコートの四隅を突くショットを打ち続けるのだが、打たれた側もチェアワークと身体のバネで、厳しいコースのシャトルもしっかり返す。技術と身体能力が高すぎてラリーが終わらない。試合開始から数百回のラリーを見て、ふとスコアに目をやるとまだ4対4。21点、2ゲーム先取のこの試合が終わるまでに、どれだけのラリーが続くのかと気が遠くなった。

 

腹筋、背筋、加速、腕力。とにかく相手がミスするまで、何十回でも良いショットを返し続ける。相手より1本多く返すことで、やっと1点が入る。ミスしても引きずらず、次のラリーに神経を研ぎ澄ませる。まだ21歳だという梶原選手が我慢と粘りをここまで継続させられるのがすごい。92連勝するまでに、いったい何万回のラリーをしてきたんだろう。

 

試合は梶原選手が2ゲームとも終盤でリードを広げてのストレート勝利。金メダル獲得、そして93連勝となった。パリパラリンピックの出場もほぼ確実で、そこまでの負けなし記録にも期待がかかる。それでも、パラ金メダルの期待以上に残ったのは「この選手たちはパラバドミントンのルールを超えてしまっているのでは」という驚きだ。

 

パラスポーツのおもしろさは、臨機応変にアレンジされたルールにもある。車いすテニスはチェアワークのスピードを考慮して2バウンドまで認められているが、国枝選手が革命的に始めたワンバウンド返球は、17歳の小田選手が世界ランク1位に君臨する今では主流になっている。「車いすテニスは2バウンド返球」というルールを選手たちの能力が超えたのだ。

 

何百回もの我慢のラリーも魅力だが、コートを広げての激しい攻防も見てみたい。梶原選手なら巧みなチェアワークと全身のバネで、もっと遠くの、もっと厳しいショットにも追いつけるのではないか。「国枝選手のようなパラスポーツをリードする存在」を目指す21歳に、パラバドミントンのルール改革を期待したくなった。