妄想上等〜バスケW杯後のBリーグはストーリーに溢れている〜

文化スポーツライターキリンコ

妄想上等〜バスケW杯後のBリーグはストーリーに溢れている〜

W杯の活躍でバスケ界のヒーローから全国区の有名人へと飛躍した河村勇輝選手が所属する横浜ビー・コルセアーズの本拠地は、プールだ。プールの底に床が張られ、飛び込み台からチームバナーが吊り下がる。

 

オリンピック切符のかかる最終戦でフル出場し、疲労困憊の中でチームを救う29点をあげたホーキンソン選手が今季から所属した渋谷サンロッカーズの本拠地は、青山学院のホールだ。アルコールの販売もなく、コート外のスペースがあまりに狭いため、ハーフタイムのトイレの列は青山通り近くまで延びる。

 

突然のバスケブームでBリーグのチケット販売数は昨シーズンの2倍だ。当日の電車の中でもチケットを購入できた頃が懐かしい。今や立ち見も満席、ゴールが全く見えないチケットを高額で販売してしまったSNSでの炎上案件すら眩しく映る。

 

早ければ数秒で得点が積まれていくバスケは、盛り上がり要素に事欠かない。NBAファンからは冷めた目で見られることの多いBリーグも、W杯で選手が存在感を示したことで「日本バスケの面白さ」をしっかりアピールできたように感じる。

 

激しい1on1や執念のブザービーター、終了寸前での逆転劇に、歓声で体育館が揺れる。それでも不思議なのは、帰り道に頭で再生されるのは観客を煽るような激しいプレイではなく、その合間に見せる選手たちの静の部分だということだ。

 

チームメイトの大庭選手が負傷欠場した日、河村選手は大庭選手がつける14番のジャージを着てウォームアップした。ベンチへ戻ると脱いだジャージを几帳面にたたみ、14の数字をそっとたたいた。

 

アメリカGリーグから5年ぶりにBリーグに戻り長崎ヴェルカへ所属した馬場雄大選手は、青学会館のコートで渋谷サンロッカーズの田中大貴選手を見つけると顔をほころばせて近づいた。馬場選手が筑波大の学生時代から所属したアルバルク東京を、共に引っ張った二人だ。今や日本代表でも上の年齢となった馬場選手が、末っ子に戻ったような表情でストレッチを続ける。(敵コートで堂々とアップできるのが馬場選手らしいが)

 

どちらも当の選手たちにはなんていうことのない1シーンかもしれない。それでもファンはそこにストーリーを見つけて心に刻む。ストーリーの数だけゲームにのめり込み、勝敗を超えて選手に声援を送る。そのストーリーがファンの妄想だとしても応援の力になるなら構わない。妄想上等だ。

 

バスケW杯に心奪われた人が日本代表選手のいる体育館に足を向ける。そこでW杯では息を合わせた選手同士が敵チームとして顔を合わせ、それでも嬉しそうに身体をぶつけ合い、言葉を交わす光景に胸を熱くする。名勝負はその戦いだけでなく、その後のスポーツ全体をストーリーとして記憶に残す。妄想が今、バスケというスポーツを育てている。