ニッポンチャチャチャではスタジアムは揺らせない ~アジアプロ野球チャンピオンシップに「定番応援歌」の芽を見た~

文化スポーツライターキリンコ

ニッポンチャチャチャではスタジアムは揺らせない  ~アジアプロ野球チャンピオンシップに「定番応援ソング」の芽を見た~

「日本の野球ファンの皆さんにお願いがあります」

 

SNSでオーストラリアチームが呼びかけた。アジアプロ野球チャンピオンシップ,

台湾との3位決定戦の前夜のことだ。国際大会のオーストラリア応援につきものの「オージーオージーオージー」「オイオイオイ」の掛け声に加えて、中日のチャンステーマ『狙い撃ち』を歌ってほしいというコアなリクエストが、野球ファンの心を捉えた。

 

東京ドームでは即席のオーストラリア応援団「カンガルークラブ」が結成され、日本プロ野球独特の応援歌でチームを鼓舞する。ドームが歌に包まれる見慣れた光景も、グラウンドに立つのがオーストラリアチームとなると何やら感動的だ。

 

「いつもと違う応援歌」が胸に迫った場面は、もう一つあった。日本対韓国の決勝戦。満員の観客によるそれぞれの選手、球団のオリジナル応援歌やチャントの大合唱はWBCの時と同じだが、3月にはかからなかった曲がイニング間に流れた。大ヒットしたバスケ映画スラムダンクの主題歌「第ゼロ感」だ。

 

夏のバスケW杯で沖縄アリーナにこの曲がかかると、会場中が「whoa whoa」のコールで応えた。日本チームの奮闘による大逆転勝利のたびにコールの声は大きくなり、48年ぶりにオリンピックへの自力出場を決めた最終戦の勝利後には、曲がかからないうちからアカペラでの大合唱がこだました。以来バスケのBリーグでは会場を盛り上げるためのテーマソングとして定着しつつある。しかしこの曲と「whoa whoa」の大コールを、まさかプロ野球のスタジアムで聞くことになるとは思わなかった。それぞれのスポーツに流儀があって敷居をまたぎにくく感じていた日本スポーツの、新しい応援スタイルの可能性を見た気がする。

 

野球やサッカーは観戦も成熟していて、チームサポーター活動も日本代表への応援も確立している。ところがそれ以外のスポーツとなると応援の定着が難しい。誰でも知っている日本の応援といえば「ニッポンチャチャチャ」なのだが…自国開催はまだしも、世界の舞台では威力が弱いことを、フランスのラグビーW杯で思い知らされた。

 

多くの日本人が円安にもめげずサクラのジャージを着て現地観戦に訪れたが、「ニッポンチャチャチャ」はチリ、アルゼンチン、イングランドの応援の熱量にかき消され、全くかなわなかった。特に南米各国のファンはラグビーではなくサッカーでなじみのある複数の応援歌やチャントを大声量で披露する。歌声は強い。会場を震わせ、観客の心を揺さぶり、鳥肌を立てる。

 

ゲームの合間に流れる曲は開催国フランス人がコールで応えられるものばかりだった。ラグビー独自ではなく、テニスやユーロバスケでも聞きなじみのある曲に合わせた大音量の「Allez les Bleus」は圧巻で、間違いなく選手を後押しした。日本にも、競技に関係なく大音量で会場を揺らす「歌」が必要だ。

 

バスケの「whoa whoa」でもいいし、サッカーの「ニッポーン、ニーッポン」でもいい。なんなら日本の宝、大谷選手の応援歌「飛べ大谷、夢の向こう側へ」を日本の応援歌にしてしまってもいい。どの競技にも、どの会場でも、誰にでも声を響かせられる、観戦でなく応援を楽しむための「日本定番応援ソング」が、今すぐにほしい。