大笑いしながら日本代表と戦える場所が、体育館にあった ~シッティングバレーの世界~
文化スポーツライターキリンコ
大笑いしながら日本代表と戦える場所が、体育館にあった ~シッティングバレー~
国立競技場の開会式で杖をついて行進した、そびえ立つほど背の高いイランの選手。東京パラリンピックでのシッティングバレーの印象を聞かれても、思い出すのは彼のことくらい…という人もいるかもしれない。四肢に障害のある選手が座った状態でするバレーボール、シッティングバレーボール。でも実は、私たちが思っているよりずっとずっと身近なところに、このスポーツはある。
パラの国際大会は障害がある選手しか出られないが、国内の大会はチームに1名障害のある選手がいれば参加できる大会や全員が健常者でも参加できる大会がある。健常者が主体のチームも多く、子どもも高齢者も日本代表選手と一緒に楽しめるユニバーサルスポーツだ。それだけでも驚きだけれど、シッティングバレーボールはもっとたくさんの意外性に満ちている。
座るというシンプルなルールで、誰にどんな障害があるのかわからなくしてしまう痛快さもそう。座ったままだからゆるい球になるのかと思いきや、顔のすぐそばでアタックを打たれるスピード感もそう。一般のバレーボール選手と対戦しても勝ててしまうという、体幹を使いまくる独特な動きもそうだ。
でも一番の意外性は、緊迫感のあるラリーにかぶさる高らかな笑い声だろう。「ナイスプレー」「惜しい」コートが狭いので選手間の距離がとても近く、まるで円陣を組みながらプレーしているような親密感。その中で沸き上がる笑い声は、試合がどんなに白熱しようと途切れることがない。
「本気で競技をすることと、楽しむことは別々じゃない。楽しむからこそ力が出せるところを見せたいんです」と東京都シッティングバレーボール協会副会長の別府遥さん。彼女もまた小学生の頃からシッティングバレーボールを楽しみ、昨年末の日本選手権で優勝し、パラ日本代表を擁する東京プラネッツ女組に所属する健常者選手だ。
本気で上を目指すスポーツは苦しいもの。そんな固定概念をさらりとかわし、笑いながら真剣に勝ちを目指す。障害のある選手がいてこそ成り立つ。目立たないけれどそこには確かに、本来のスポーツの形があると思う。
「バレー経験者も、ただスポーツが好きな方も、とにかくみんなに来てほしい。もちろん障害のある方、他のパラ競技をやっている方も大歓迎。競技人口が少ないから、日本代表になりたければ大チャンスですよ」
明るく欲張りなことを言う遥さんだが、大笑いしながら本気で戦う仲間の中にパラ日本代表がいる光景が当たり前になったら、大げさでなく、この国のスポーツ文化のレベルは一段と上がることだろう。
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