過去のどの政権もそうだが、一旦政権を手にすると、そう簡単に手放さなくなるものだ。

加藤清隆の『俺に喋らせろ!』

過去のどの政権もそうだが、一旦政権を手にすると、そう簡単に手放さなくなるものだ。

 菅首相は元々、昨年9月、安倍首相が病気で突然辞めたため、自民党総裁の残任期1年を引き継ぐ形で首相に就任した。このため、最初から「暫定政権」と言われ、具体的には今年9月末の総裁選までと言われ続けてきた。

 しかし、過去のどの政権もそうだが、一旦政権を手にすると、そう簡単に手放さなくなるものだ。それはそうだろう。最初から「暫定政権」色が濃厚な場合、誰も総理大臣の言うことなど聞かなくなる。また1度手にすると「政権の妙味」が忘れられず、長期政権を目指すというケースが多い。

 菅首相の場合もご多分に漏れず、そのケースのように見受けられる。それならば、内閣支持率が70%近くあった政権発足当初に思い切って解散しておけば、その後の展開も大きく変わっていたかも知れない。ただ菅氏にしてみれば、安倍氏のような華がないから、とにかく「仕事師」としてまず日々の政策遂行が何より最優先ということだったのだろう。

 そこで菅首相は今何とか、9月の総裁選前に衆院解散に踏み切り、勝利した上で、総裁選は無投票再選、ということを考えているはずだ。このため前回と前々回解説したように、菅首相は訪米から帰国後に解散し、5月に総選挙ということを考えた。

 ところがコロナの感染拡大で、その目論見はもろくも崩れ延期に。次に考えたのが、5月下旬に解散し、7月4日の東京都議選との「ダブル選挙」だ。今のところ、その方向で進んでいるが、これまたコロナの感染状況次第。それにもう1つ重大な問題がある。

 それは4月25日に投開票される衆院北海道2区と参院長野選挙区の補欠選挙と参院広島選挙区の再選挙だ。衆院北海道2区は自民党の現職が汚職で議員辞職したため、同党は次の候補を出せず不戦敗。参院長野選挙区は立憲民主党現職議員の突然の死で、その弟が出馬したいわゆる「弔い合戦」のため、自民党候補が勝てる可能性は低い。参院広島選挙区も現職議員の公選法違反(買収)が確定した後の再選挙で、自民党候補は非常に厳しい選挙戦を強いられている。

 このため自民党が「3連敗」となる可能性が高い。もしそうなると、「菅首相の手で次の総選挙はとても戦えない」との声が党内から出るのは必定。また広島選挙区で落とせば、ポスト菅候補の筆頭の岸田前政調会長の地元だけに、同氏の総裁選出馬に重大な影響を与えるだろう。

 菅首相は何としても5月下旬に解散して、7月初めの都議選とのダブル選に持ち込みたい意向だが、党内でそれを許す雰囲気がその時醸成されるか、難しい判断となるだろう。

 そんな時に安倍氏が「菅ちゃんは五輪までは支える」と、いかにも五輪後は総裁(総理)を代えるとも受け取れる発言をしたとの噂が永田町を駆け巡った。私は安倍氏が現職首相のことをそんな言い方するはずがないと思うが、しかしこういう発言に敏感に反応するほど今の自民党はぴりぴりしている。

 では仮に菅首相の再選がない場合、後任はどうなるのか?

 まず最初に考えられるのは先に触れた岸田前政調会長だ。前回の総裁選で2位に滑り込み、何とか次回に首をつなげた。ただし先ほども指摘したように、地元・広島で参院再選挙で自民党候補を当選させられないようでは、次の総裁も難しいだろう。逆に言えば、もし再選挙で勝利すれば、岸田氏の次期総裁(首相)のの可能性は俄然高まる。同氏にとってこの再選挙は政治生命を賭けた重大な戦いと言ってよい。

 次にやはり前回の総裁選に出た石破元幹事長の次回出馬は難しいだろう。そもそも総裁選出馬には20人の推薦人が必要だが、前回の敗北で石破派は事実上解消し、派の人数も減った。

 現職閣僚の中で「ポスト菅」候補と言えば、河野規制改革担当相と小泉環境相の2人の名前が挙げられよう。特に河野氏は現在コロナワクチン担当も務め、マスコミへの露出も高い。ただ女性・女系天皇問題や原発問題などについての考えが自民党総裁に相応しいのか、厳しく批判する声も党内には多い。これらの問題の修正を図らない限り、総裁選に出馬しても勝利は難しいだろう。

 一方、小泉氏は知名度は抜群に高いが、環境相としての務めを十全に果たしているかと言えば、そうは言い難い。「カーボンニュートラル」や「電気自動車化(EV)」、「プラスチック全廃」など見栄えのする政策には積極的に発言するが、例えば福島第1原発の「処理水」など面倒な問題にはついぞ発言せず。本来なら風評被害を恐れる漁民の説得は小泉氏の役目だったはず。自分の役目も果たさないでは、総裁選勝利など夢のまた夢だろう。

 この他では、サプライズと見られるのが麻生副総理兼財務相と安倍前首相の2人。麻生氏については、コロナ収束後の景気回復のため、積極財政論者の麻生氏の再登板に期待する声は財界などに多い。ただし、現在80歳という年齢がどうしてもネックになる。見かけより若々しく、バイデン米大統領が78歳ということを考えると、全く可能性がない訳ではないが、問題は果たしで麻生氏で総選挙を勝てるかということだ。

 もう1人のサプライズの安倍前首相は、麻生氏ら3たびの登板を期待する声は想像以上に多い。特に菅氏が外交・安保分野が非常に不得意な分、世界に名だたる安倍氏に対する期待度は高い。昨年の病気辞任後、体調はかなり改善されているようだが、本人は3度目の首相を受けるつもりはないようだ。

 もし仮に安倍氏が登板するとすれば、中国や米国を巻き込む外交問題の最大化という緊急事態が菅氏では手におえなくなり、急遽安倍氏に白羽の矢が立つというケース。年齢もまだ66歳と若く、体調さえ戻れば、いつでも首相は務まるだろう。

 最後に、安倍氏の実弟の岸防衛相についても一言触れておきたい。同氏は安倍氏の弟ということで、大臣になるタイミングが遅れたが、防衛相就任後は発言にもメリハリがあり、主要国との2プラス2会合では、茂木外相を上回る発言で注目を浴びている。もう1つ主要閣僚を経験した後なら、岸氏を総理にという声は間違いなく上がるだろう。(加藤)

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