地味駅伝にNBAのきらびやかな風を

文化スポーツライターキリンコ

地味駅伝にNBAのきらびやかな風を

アメリカを拠点に活動しているマラソンランナー大迫傑選手が、インターネット会社のGMOに参画してニューイヤー駅伝に出場するそうだ。箱根駅伝のスターとオリンピアンが集まる超スピード駅伝なのにびっくりするほど地味な、元旦の実業団対抗駅伝に、だ。

 

出場はあくまで単発で、指導を含めた業務委託契約のようなもののようだ。ベンチャーらしい新しい雇用形態でトヨタや旭化成など大手強豪チームと勝負したいGMOと、日本の長距離界に風穴をあけたいプロランナーの大迫選手の思いが一致した陸上界の大ニュース。けれどたいして驚くこともなく「ふむふむ」と受け入れてしまったのは、先日行われたNBAジャパンゲームのショックを引きずっているからだ。

 

プレシーズンのエキシビジョンマッチなのに、40万円超の高額値がついたチケット、オフに渋谷や原宿に出没する選手の姿がゲームのポケモンGOにちなんでつけられたNBA GOなど話題に事欠かなかったけれど、一番印象的だったのはコートサイドにずらりと並んだ堀米悠斗、大坂なおみらインフルエンサーたちの姿だった。足元は揃ってNIKE。しかも全て未発売のデザインだそうで、それだけでネットは大騒ぎになった。

 

地上波で放送されなかったこのイベントは、興味のない人には全く知られないまま終わった。それでもNBAファンではない流行を生きる層にも強烈なインパクトを残したことは間違いない。チケット、グッズ、スポンサー料で、放映権などなくても十分に成り立つ大型スポーツビジネスの力を見せつけられた。

 

かわって今の国内のスポーツ事情といえば、ほとんどがそこから遥かに遠いところにいる。コロナ禍による制限が明けても観客は戻りきらない。いや、マイナースポーツにだって現地に行けばちゃんと観客はいる。熱心なファンは必ずいて、盛り上がるし楽しめる。でもファン以外に知られなければ、広がりようもない。

 

「応援ありがとうございました」とチームや選手はSNSで言うけれど、日本選手権や世界選手権でさえ当日購入できるチケットを手に「これでいいのか?」と思う。試合が白熱して満足感が大きいほど余計に「これじゃいかん」と思いながら帰途につく。

 

世界への道を切り拓くブランドイメージがある大迫選手にとっては、リスクにも見える国内駅伝への出場。それでも、話題になることに価値がある。まさに競技のインフルエンサーだ。閉塞感のある日本に、日本スポーツに、なりふり構わない話題作りがほしい。帰国したらロードでの練習はフォトジェニックな場所を選んで、いっそのこと告知もしてもらえないだろうか。NIKEの新作をまとってイメージとはほど遠いくらいのファンサービスをしてもらえたら、その姿は孤高のランナーとしてケニアを走るよりも、ずっとカッコよく見えると思う。

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