スポッチャで車いすラグビーがやりたい

文化スポーツライターキリンコ

スポッチャで車いすラグビーがやりたい

ボッチャをする時の感覚はダーツやビリヤードに似ている。見ているよりずっと難しいけれど、次はもう少しいいショットが投げられそうで、今度こそ、今度こそとつい夢中になる。

レーサー(陸上用車いす)は自転車以上の爽快感と、腕に溜まる乳酸とのバトルだ。もっとスピードを出したいけれど、腕が言うことを聞いてくれない。

パラリンピックから1年の節目に、各地でパラスポーツの体験イベントが行われている。見るだけではそのすごさがピンとこないものも、体験することで競技レベルの高さも面白さも実感できる。どれも魅力的なイベントではあるのだが、参加するのはパラスポーツに興味がある人ばかり。「パラスポーツ」を囲む壁は高くて、いくら壁の内側で盛り上がっても、スポーツとしての人気が外に出ていくことは難しい。

その壁を先陣を切って突き破ろうとしているのは車いすバスケだ。パラリンピックの銀メダル。ドイツのブンデスリーガで活躍した藤本、香西両エース。そして類まれなセンスと身体能力が魅力の若きスター、鳥海選手。「大舞台」「海外」「推し」の3点セットが揃って、車いすバスケには今確実に、パラスポーツファン以外のファン層が増えている。自前で応援Tシャツやタオルを作り、ファンミーティングを重ね、国際試合も追っかける。選手の出待ちの列を見て「パラアスリート待ちだ」と気づく人はいないだろう。

パラリンピック後の車いすラグビーにもそれに続く気配はあった。6月のカナダカップで優勝し、今や世界ランキング1位。実績は十分なのだが、ファン獲得では車いすバスケと大きく溝をあけられているようだ。公式Twitterアカウントのフォロワー数は車いすバスケの4分の1。週末に行われた日本選手権予選も、地元チアリーディングの子どもたちの力を借りてやっと席が埋まる程度で、車いすバスケのような熱烈なファンの姿は見当たらなかった。

ところがその会場で、車いすラグビーが車いすバスケより絶対に上回る! ものを見つけた。体験会だ。いつものパラスポーツ体験かと思いきや、これが全く違った。車いすラグビーでは車いすをぶつけ合うことが認められている。通称ラグ車と呼ばれる車体は、車いすというよりは装甲車だ。素人が恐る恐るぶつけても、鉄パイプで殴りつけるくらいの衝撃音が響く。

自転車だろうがレーシングカーだろうが、はたまたゴーカートだろうが、正面から全速力でぶつけ合うことが許されている乗り物なんてない。パラスポーツというよりはまるでカーアクション、あるいは戦闘ゲームに見える。murder(殺人) ball との異名を持つ車いすラグビー。しかも実際にチームに入ってプレイできるのは上肢下肢両方に障害を持つ選手に限られる。彼らの巧みなチェアワークには及ぶべくもないが、ラグ車同士の激突を体感するには今のところ、体験会に参加するしかないのだ。

衝突の瞬間、車いすの上で悲鳴と共に顔を覆った女の子も、ミニゲームではなんとか仲間にボールをつなごう、なんとか相手を食いとめようと、必死になる。ガツーンガツーンと相手の車いすにぶつかっていく表情に闘志がみなぎった。きっとこのスポーツ体験を一番楽しみ、病みつきになるのは、パラスポーツからは一番遠いところにいる、10代、20代の男の子たちだ。それなら体験はここでなく、彼らが集まるところでやってほしい。体育館ではなくで雰囲気のある倉庫などで、SNSのインフルエンサーたちにこの凄まじいスポーツを広めてもらえないだろうか。

スポーツアミューズメント施設で、車いすラグビーができるようになったら最高だ。マシーンを自在に操りながら仲間のために身体を投げ出す選手たちは、実はめちゃめちゃモテるらしい。愛車を乗りこなし、敵に正面から突っ込み、猛スピードで球を追いかけ、華麗にキャッチ&ゴールをきめる車いすラグビー選手たちが、若者の羨望の的になる日も来るかもしれない。

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