襷の物語はどこまで広がるか…箱根駅伝が全国大会に変わる時
文化スポーツライターキリンコ
襷の物語はどこまで広がるか…箱根駅伝が全国大会に変わる時
紅白歌合戦と同じくらい、人によっては全く意味のない年末年始のお祭り騒ぎ、箱根駅伝。大学スポーツの関東大会に過ぎないのにコンテンツとしてふくらみ続け、ファンは近年ますます熱い。推しの選手の写真で団扇を作り、大学のマフラータオルを買い、なんと監督の熱烈ファンまでいたりする。
コロナで現地観戦が制限された2年間で応援スタイルは変わったが、TV中継の人気は健在だった。絶叫調の中継に辟易することはあっても、一年間の徹底取材に基づいて紹介される選手のストーリーは共感するのに十分だ。体だけを武器に晴れ舞台を一人疾走する様は格闘技にも似て、見ている側も熱くなる。
何より箱根駅伝の魅力は、世界からクレイジーと言われる過酷さだ。そして過酷だからこそ、中継所で襷を手にしたチームメイトを迎える選手の笑顔にグッとくる。苦しむ仲間の姿、共に乗り越えてきた練習や生活、緊張と不安と興奮。その全てが凝縮された表情が、順位に関係なく笑顔なことにどこかホッとする。往復10時間の長丁場、中継地点での笑顔を8回×21チーム、168人分見られるのが箱根駅伝なのだ。
その笑顔の数が倍増する可能性があるのが2024年、100回記念大会だ。ついに全国の大学の挑戦が認められ、予選会に参加できると発表された。とはいえ有力選手は関東の大学に進学する現状で、ハーフマラソンを走る選手を10人揃える準備が、今から地方の大学にできるわけがない、と疑問の声も上がっている。
実際、予選会に通過するのが通常の倍になったとしても、毎年予選通過のボーダーラインにいる関東大学がその大半を占めることになるかもしれない。それでも今までにない試みに、すでにワクワクしている。今までになかった種類の、新しいストーリーと笑顔が見られる可能性があるからだ。
本戦に地方の大学が顔を揃えることが難しいとなると、注目したいのは予選会だ。ハーフマラソンを走った10名の合計記録で競う予選会は、記念大会でも一斉スタートと発表されてはいるが、参加校が倍増するなら全員一度に出走するのは無理がないか。全日本大学駅伝のように何組かに分けるか、周回の駅伝スタイルにするか。たっぷり時間をかけた取材から、いいドラマが見える構成を期待したい。
実は、箱根駅伝が世界へ挑戦する競技力を下げていると指摘する声も少なくない。現役あるいは卒業後の選手が、20キロ超の距離、山への対応といった特殊なトレーニングによって、その後長期の怪我に悩んだり、専門種目へのピーキングに苦しむ姿を見ることが多いのも事実だ。それでも大学スポーツだからこそ、何を目指すのかは選手が決めていいはずだ。世界を見据えて箱根とは一定の距離をとるのもいい。そして全てのゴールを箱根の出場に定めるのもまた、いいではないか。
関東の大学への進学が叶わず、箱根を苦々しい思いで眺めていた選手。入学してから記録が伸び始め、箱根を走れるほどの新たなステージへと登っている選手。科学に基づいたランナー養成理論の実践の場を求めていた大学。その選手が、大学が箱根を目指すなら、ふくらみすぎた箱根駅伝のエネルギーを予選会に移し、そこで生まれるドラマを存分に堪能したい。
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