何円で何人呼べるか、国立競技場

文化スポーツライターキリンコ

何円で何人呼べるか、国立競技場

6月6日、日本対ブラジルのサッカー国際親善マッチが行われた。観客数は6万3638人。新しい国立競技場での最多記録だ。放送中に観客数がアナウンスされた時、SNSでざわついたのは、同じく国立競技場で試合を行うラグビーや陸上のファンたち。「ラグビーの倍かぁ」とラグビーファンがため息をつけば「5月の国際大会では1万人で喜んでいたぞ」と陸上ファンが嘆く。話題はチケットの金額にも及び、「サッカーはチケットが安いから売れるんじゃ」「いや、売れるから安くできるんだ」という卵と鶏論まで飛び交った。

 

とにかく6万8千という座席を全て販売し(上層階はそもそもクローズされていることが多い)、満席近くを売り切ったサッカーには改めて羨望の目が集まった。多くのスポーツにとって合言葉は「目指せサッカー」「目標はJリーグ」。この広すぎる競技場は運営側の頭も悩ませるだろうが、ファンにとっても競技の現在地を突きつけられる、なかなかにシビアな聖地なのだ。

 

だから興行的に大成功だったはずのブラジル戦で、終了後選手たちが失望を露わにしたのには驚いた。「ブラジル代表のユニホームを着た人が多くて悲しい」「日本代表の試合をホームでやるなら、みんなが日本を応援するという文化を作っていかないと」

 

おそらくサッカー選手にとって、日本で行われる国際試合に観客が集まるのは当たり前なのだ。その上でどんなふうに応援し、試合を盛り上げるのかをファンに要求する。プロスポーツとして市民権を得ているからこそ、応援する側もなかなか大変なようだ。対するファンも「ブラジルサッカーの方が魅力があるから当然だ」と手厳しい。

 

対してラグビーや陸上、もっと競技人数もファンも少ないマイナースポーツなどは、とにかく選手とファンの距離が近く、お互いに優しい。試合の結果がどうであろうと選手からは感謝、ファンからは労いの言葉しか聞こえてこない。コアなその世界に浸っていると、チケットを買って応援に駆けつける人などいくらでもいそうに思えるのだが、実際は当日になってもなおチケットの販売サイトには購入可能の丸印が並び、空席を目立たなくさせるモザイク柄の座席デザインの奏功ばかりが目立つ。

 

ところで、そんなファン泣かせの国立競技場に、見学ツアーがあるのをご存知だろうか。映画館のチケットより安い金額で、誰でもピッチに立ち、ハードルを駆け抜け、ロッカールームで腰を下ろし、オリンピックで使われた表彰台に上がることができる。幸か不幸か週末でも空いていて、ピッチから見上げる無人のスタジアムの写真が撮れたりする。

 

オリンピックの為に作られ、無観客で本番を迎えた広すぎる競技場。税金の無駄と言われようが、作ってしまったものはしょうがない。メジャーもマイナーも、ライブでも観光でも映えスポットでも、この際なんでもいいから、知恵を絞って集客したい。未使用感が漂うキレイすぎるこの都心のスタジアムのシートが色褪せはじめる頃までには、多くの競技の憧れの聖地となるように、日本のスポーツ界を育てていってほしい。

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