菅首相とバイデン大統領による日米首脳会談は合計で2時間半にも渡り、対中国結束で一致したことは大きな成果だと言ってよい

加藤清隆の『俺に喋らせろ!』

菅首相とバイデン大統領による日米首脳会談は合計で2時間半にも渡り、対中国結束で一致したことは大きな成果だと言ってよい

 菅首相とバイデン大統領による日米首脳会談は合計で2時間半にも渡り、対中国結束で一致したことは大きな成果だと言ってよい。アメリカではほとんど報道されなかったが、日本では52年ぶりに「台湾」の文言が共同声明に入ったことなどが大きく報じられた。あた香港や新疆ウイグル自治家の人権状況についても「深刻な懸念」で一致し、「自由で開かれたインド太平洋実現へ」連携することなども盛り込まれた。菅首相としても初の外国要人との対面の首脳会談としてはまずは「合格点」と言って良いのではないか。

 ただ気になる点もある。日本のメディアが大きく取り上げた「台湾」については、あれだけ長文の共同声明にたった1カ所「両国は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と出てくるだけだ。しかも会談後の両首脳による共同記者会見でも首相が「台湾海峡の平和と安定の重要性は日米韓で一致しており、改めて確認した。(台湾や尖閣は)厳しい状況が続いているのは事実だ。平和裏に解決することを最優先にすると合意した」と述べたものの、大統領からは一言の発言もなかった。

 また香港や新疆ウイグル自治区の名前は出たものの、同様に中国政府から深刻な人権侵害の被害に遭っているチベットや南モンゴルについては全くの言及なし。こうしたことを考えると、バイデン大統領が中国のウイグルなどに対するジェノサイドや強制労働について真剣に受け止め、解決策を模索しているのか、いささか心もとない。菅首相にしても「中国との話し合いによる解決」ばかり主張し、欧米と同様の対中制裁措置に言及しないことは非常に気になるところだ。米側は「日本はずるい。こちらは本気なのに、日本は中国にもいい顔する」との不満が漏れているという。

 ただ台湾海峡有事の可能性については、専門家が縷々指摘しており、最早「時間の問題」と受け取った方が良さそうだ。拓大の渡辺利夫氏の記事を引用させていただき論を進めたい。

 バイデン大統領から次期インド太平洋軍司令官に指名されたアキリーノ氏の上院指名公聴会での証言の核心部分は次の通りである。
 同氏は中国による台湾侵攻は「大多数の人たちが考えるよりも非常に間近に迫っている」と強調。これに先立つ上院公聴会で現司令官のデービッドソン氏は、「中国は今後6年以内に台湾に侵攻する可能性が高い」との見解を示した。海峡有事となれば最前線で指揮を取るインド太平洋軍の司令官の発言であり、非常に信憑性が高いと言って間違いないだろう。

 2012年に中国共産党総書記となり、「中華民族の偉大なる復興」というスローガンを繰り返して来た習近平氏は19年、台湾統一のためには「武器の使用を放棄することを約束せず、あらゆる必要な措置を取る」ことを明言するようになった。香港の民主政治を力でねじ伏せた後の中共最大の政治的事業が「台湾統一」だとする声を最早隠そうともしない。

 実際に、中国の軍用機や軍艦が台湾周辺に出没する事態が恒常化しており、台湾海峡の中間線を越え、台湾側への侵入は、昨年1年間に6回に及んだ。

 中国は果たして本当に台湾を侵攻するのか?ここまで周到な準備を重ねながら、中国はなぜなお台湾に手を出さないのか?それは「台湾関係法」という国内法によって米国が台湾を同盟関係と見なしているからだ。

 1979年1月1日の米中国交樹立に伴い、米国は台湾との断交を余儀なくされたものの、同年4月国内法の台湾関係法を制定し、1月1日に遡及して同法を施行するすることを宣言。断交の米台関係への影響を最小化し、かつアジア共産化への中国の意図を牽制する橋頭堡を台湾に築こうという米国の意思表明でもあったのだ。

 96年3月の台湾初の総統選に際し、中国が弾道ミサイルで台湾を威嚇したものの、米国は逆に空母機動部隊を台湾海峡に派遣し、中国の意気を消沈させたことも記憶に新しい。このことが可能だったのは、米台が台湾関係法を通じて同盟関係にあったがゆえだ。近年ますます米国による台湾への武器売却は台湾関係法の要諦だ。

 太平洋における米中覇権争いが露になったのがトランプ政権下だった。同政権は、2017年12月の「国家安全保障戦略」では「台湾関係法に基づき他からの圧力を阻止するために台湾との関係を維持する」と表明した。

 台湾有事を前に日本にできることは一体何か?日本も1972年以来、台湾とは断交状態にある。断交状態にありながらも、日台の経済関係や文化交流、人的往来は途絶えるどころか、ますます盛ん。これを促すための投資保護、二重課税防止、民間漁業協定など30以上の様々な取り決めがなされた。しかしこれらはあくまで日台双方に設置されている民間窓口機関相互の取り決めであり、日本という主権国家の法に基づいて執行されることにはならない。台湾との関係を律する国内法が日本に存在しないからだ。

 これに加え、中国の台湾に対する軍事的圧力や東・南シナ海における軍事的膨張を前にして、日台の安全保障対話、情報共有が日本の安全保障にとっていよいよ重要な課題になっている。それを可能にする国内法が不可欠だ。日本の安全保障空間を少しでも広げておくためには「日台交流基本法」という名の日本版台湾関係法の制定が欠かせない。(加藤)

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