【リオオリンピック閉会式を彩った若手アスリートの今】

文化スポーツライターキリンコ

【リオオリンピック閉会式を彩った若手アスリートの今】

 東京オリンピック閉会式の感想…はここでは書かないけれど、終了後のSNSはリオオリンピック閉会式で使われた東京PR映像で溢れた。5年たった今も古さを感じさせない、スピード感のある映像だ。唯一時間の流れを感じさせるのは、柔道金メダリストの阿部一二三選手ら五輪候補だった若手アスリートたちが初々しい表情で登場していたことだろうか。
 映像は細かいカットでつながれていて全ての選手を確認することはできないのだけれど、阿部選手以外にオリンピック出場を果たしたアスリートは見当たらない。若くして天才と呼ばれ活躍を期待された選手一人ひとりに、怪我や伸び悩み、ライバルの台頭などさまざまな壁が立ちはだかっただろう5年間を、思いがけなく感じることになった。

ひょんなことがきっかけで選手に親近感を持つことがある。リオの映像で卓球ラケットを振った加藤美優選手は私にとってそんな一人だ。
 15年も前、保育園のお迎えに自転車を走らせる道に、毎晩卓球の球の音が聞こえてくる車庫があった。カンカンカンカン、いつ通っても途切れることがない。定年後の趣味が高じて家に卓球台を持ち込んだおじさんの姿を想像していたが、やがてそれがまだ6歳の卓球少女、加藤選手だと知った。ほどなく天才少女として情報番組「スッキリ」で車庫の中の練習場が公開されたり(これには本当にスッキリした)、逆回転のチキータが名前をもじって「ミュータ」と名付けられたりして注目された。中学からは日本代表強化選手としての寮生活で車庫から球音は聞こえなくなったけれど、中国の陳夢選手に勝ったり世界選手権の代表になったりと活躍のニュースを聞くたびに手をたたいた。
 輝かしいアスリート人生を送ってきた加藤選手だけど、その名前を知っている人は少ない。理由はハッキリしている。同世代の伊藤美誠、平野美宇選手がそれ以上の結果を出して、メディアでも「みゆみま」として大きく取り上げられるようになったからだ。CMやバラエティにも登場するようになった人気者の陰で、それでも加藤選手の世界ランクは最高13位。十分に素晴らしいし、小さい頃からのあの努力は実を結んでいる…そう考えていた私は、ある日彼女のSNSの投稿を見て、息が止まりそうになった。
 「同世代の活躍をどう思いますか? って一番聞かれる質問だけど、(中略)もっと応援されたい愛されたい輝きたいって思うよね」
努力を怠らず、常に結果を出すことを求められるアスリートの苦しみは想像していたけれど、結果を出すだけでなく、愛されてこそ生き残れるアスリートの宿命を思い知らされた。同時に、私たち誰もが抱えながら人には見せることのない「愛されたい」という根源的な欲望を、こんなふうにくっきりと身に寄り添わせるアスリートのすごみを感じたのだ。
 オリンピックで激闘を制しメダルを手にした選手たちよりも、体操で鉄棒から落下した内村選手やリレーでバトンが繋がらなかった山縣選手のインタビューを思い出すことが多いのは、彼らの表情から伝わるむき出しの感情が、私たちが深いところにしまっている「勝ちたかった」「愛されたかった」という欲望を刺激するからなのかもしれない。
 オリンピックが終わるとすぐ次の国際大会の代表選考会が始まったが、「心と体を休めたい」と加藤選手は辞退を表明した。心身を大切にできる、大人のアスリートに成長していることを誇らしく思う。小さな頃から活躍するということは、生き様を見せてくれているということ。息の長い選手として息の長い応援をさせてくれたら、こんなに嬉しいことはない。

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