宮古島島民を絶望させた国会議員

沖縄県の宮古島で講演してきました。要望のあったテーマは「台湾有事と宮古島について考える」です。中国が得意とするのは間接侵略(サイレント・インベージョン)と包囲戦です。台湾に対していきなり武力攻撃を仕掛けて正面衝突するよりも、浸透影響工作を仕掛けて、実質的に乗っ取ることを第一義とし、仕上げに海上封鎖による兵糧攻めとサイバー攻撃を併用して戦意を喪失させる戦略が想定されます。有事とは軍事的侵攻だけを指すものではありません。宮古島のような離島は台湾有事の影響を直接受ける位置にあります。

 

中国は非軍事的な併合しか考えていないという主張がありますが、先の台湾総統選挙を見れば明らかなように、台湾市民には既に「台湾人アイデンティティー」が育まれています。民主的な選挙だけで中国に併合するのは年々困難になっていくでしょう。香港は正式に中国に返還された中国の領土でしたが、結局暴力で弾圧しました。香港でさえ平和的に一体化できなかったのですから、台湾を併合するのに武力を一切行使しないと考えるのは非現実的です。習近平はいつまでも待つことはできず、タイムリミットがあります。また、習近平自身が台湾併合は既定路線であり、武力行使のオプションを放棄しないと明言しており、人民解放軍は急拡大を続けています。軍事衝突の可能性を排除せずに備える必要があります。

 

中国が台湾海上封鎖を実施した場合、台湾に壊滅的ダメージを与えるのに十分な範囲を遮断しようとすると、沖縄の与那国と波照間が含まれてしまう恐れがあります。国際法上、海上封鎖は戦争行為なので、両島が含まれた瞬間に日本領土への攻撃(武力攻撃事態)と見做して自衛隊は防衛出動しなくてはなりません。しかし、岸田首相にその決断はできないでしょう。宮古島は海上封鎖は逃れるものの、シーレーンの遮断による影響を直接受けます。また、中国軍が台湾の東海岸に揚陸を試みた場合、東側からの攻撃を防ぐために石垣島や宮古島の自衛隊基地に予防攻撃を仕掛ける可能性があります。さらに、自衛隊や米軍と交戦状態になれば、先島諸島は一瞬にして戦域になってしまいます。

 

宮古島の島民は迅速に非難しなくてはなりません。しかし、大規模な非難を可能とする法的根拠はあるでしょうか?実は、国民保護法(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律)という法律があります。この法律の趣旨は以下の通りです。

 

  1. 武力攻撃事態等において、国民の生命、身体及び財産の保護を図ることを目的としている。
  2. 武力攻撃事態等における国、地方公共団体、指定公共機関等の責務や役割分担を明確にし、国の方針の下で、国全体として万全の措置を講ずることができるようにしている。
  3. 住民の避難に関する措置、避難住民等の救援に関する措置、武力攻撃災害への対処に関する措置について、その具体的な内容を定めている。
  4. 緊急対処事態においても、武力攻撃事態等における国民保護措置に準じた措置(緊急対処保護措置)を実施することとしている。
  5. 国民の保護のための措置を実施するにあたっては、国民の基本的人権の尊重に十分な配慮がなされる。

 

文字通り、国民の安全確保について、国の方針の下で、国全体として万全の措置を講ずることができるようにする法律です。法律はしっかり作ってあるように見えます。ところが、この法律には大きな盲点があります。それは以下の通りです。

 

この法律が適用されるのは以下の事態と政府が認定した場合のみ。

 

武力攻撃予測事態 (日本に対する武力攻撃が予想される事態)

武力攻撃事態 (日本に対する武力攻撃がなされた事態)

緊急対処事態 (武力攻撃の手段に準ずる手段を用いて多数の人を殺傷する行為が発生した事態または当該行為が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態で、国家として緊急に対処することが必要な事態→テロ攻撃)

 

要するにこの法律が適用される時には、既に攻撃されているか、攻撃される直前だということです。

 

常識的に考えて、日本に対する攻撃の目前、もしくは攻撃されてから避難を始めて間に合うでしょうか?間に合うはずがありません。その時には既に避難の手段を失っていることが想定されます。特に宮古島のような離島であればその傾向が顕著です。沖縄の島々から全住民を安全に避難させるのに充分な船はありません。宮古島の空港から直行便でピストン輸送しても50日間かかると言われています。そもそも、攻撃を受けてからでは船も出せず、飛行機も飛べません。

 

日本政府はなぜ、このような子供でもわかる盲点を見落とし、放置するのでしょうか?実は、恐ろしい理由があります。日本政府は国民を大規模に組織的に避難させることが、戦争準備と受け取られて相手国を刺激することを恐れているのです。信じ難い本末転倒です。我が国に脅威を与えている国に忖度し、武力攻撃が不可避、または発生するまでは国民を避難させないというのです。

 

仮に、政府が早めに事態認定をして避難勧告を出しても、短期間に全員を避難させることは不可能です。そうであれば、島に相当数の住民を収容できるシェルターを建設する必要があります。すぐに脱出できない島民は一時的にシェルターに避難し、貯蔵してある食料と水でしばらく凌ぐことができれば、生存率を高めることができるでしょう。日本は核保有国に囲まれていながら、全くシェルターを建設していない能天気な国ですが、宮古島のような離島では死活問題になります。

 

これは講演会後の懇親会で地元の方から聞いた話です。シェルター建設の重要性を理解する地元の有志の方々が永田町を訪問し、ある国会議員に陳情したそうです。すると、その国会議員はなんと次のように答えたというのです。

 

「シェルターを作るなんてことをしたら、戦争準備と受け取られる。日本には憲法9条があるからできないんですよ」

 

あまりの間抜けな返事に有志の方々は唖然としたのち、怒りが込み上げて来たそうです。戦後の日本の政治家はここまで卑屈で腑抜けになってしまったのです。ちなみに、この政治家は自身が高名な旧帝国軍人の孫(母方)であることを自慢しています。本土空襲を一日でも遅らせるために離島で最後まで戦い抜いたこの政治家の先祖は、自らの子孫の堕落ぶりをどのような想いで天国から見つめているのでしょうか?ちなみにこの政治家は、埼玉県選出でありながら、川口市のクルド人問題に積極的に対処しようともせず、全く不必要なLGBT理解増進法の旗振り役を担っていました。

 

このように、日本政府も自民党の政治家も全く当てになりません。地方自治体の首長は、首相が事態認定を行って、国民保護法に基づく対処を命じるずっと前に独自に住民を守る行動を起こす必要があります。その為には、自衛隊と密に連絡を取り、日本政府よりも早く事態認定できる体制を構築し、条例などを整備する必要があります。その為には、地方議員がことの重要性を理解して首長と協力する必要もあります。日本政府のイニシアチブを待っていたら全滅してしまいます。

 

宮古島まで行って講演しながら、島民の方から国会議員の無能さを改めて教えられてしまったのでした。

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