酒井菜摘候補圧勝で見えてくる自民党の終焉

 注目の衆院補選は立憲民主党候補がいずれも圧勝した。東京15区補選は、当初から優位とみられた酒井菜摘氏(立憲民主党)が圧勝した。飯山陽氏が上位3人に入れなかったことも残念だったが、告示前は2%から4%という完全に泡沫候補扱いされていたことを考えれば、大健闘といえると思う。
 何度か江東区に入って直接、候補者たちを見て回った。酒井氏に風が吹いているようには全く見えなかった。聴衆の数はそれほどおらず、その意味で言えば、飯山陽氏の方が聴衆はいつも多かった。
 逆に目立ったのは、酒井氏陣営が配るチラシを拒絶する人がほとんどいなかったことだ。盛り上がらない街頭演説とチラシの受け取り率の高さを見ると、消極的な支持だったことは疑いがない。政策の是非を吟味して投票した有権者はそれほどいなかったのではないか。記録的に低い投票率にもそれが表れている。つまり「白けている」のだ。
 自民党に対する批判が予想以上に強いことが窺え、保守王国といえる島根1区でも東京以上の惨敗を喫したことからも、これで「岸田下ろし」が始まらなければ、自民党の未来はないと思う。逆に立憲民主党が共産党との共闘路線をこれまで以上に強化したからといって、有権者がそれを支持するとは考えにくい。
 さらに存在感を発揮し得なかった日本維新の会や国民民主党も巻き込んで、政界再編が起こるかどうか、注目したい。逆に何も起こらなければ、自民党は再び下野することになる可能性もあると思う。
 今回の東京15区補選は、つばさの党という政治団体が各候補に執拗な選挙妨害行為を繰り返したことも特筆すべき出来事だった。X(旧ツイッター)で街頭演説を事前に告知することもままならず、民主主義を脅かす事態であることを立法府である国会も警察も深刻にとらえるべきだ。
 2017年7月、東京・秋葉原で応援演説をした安倍晋三首相(当時)に対し、一部の極左団体が起こした「アベヤメロ」コールを、多くの報道機関は、あたかも市民の安倍晋三首相(当時)に対する純粋な抗議の声であるかのように報じた。
 2019年の参院選では、札幌市で安倍首相(当時)が行った応援演説の際、執拗に「アベヤメロ」と繰り返した男性と「増税反対」と叫んだ女性を現場から排除した北海道警に訴訟を起こす事態が起きた。このときも一部テレビメディアは「ヤジと民主主義」というドキュメンタリー映画まで作って、立憲民主党の支持母体の労働組合に所属する女性らを支援した。
 立憲民主党の酒井菜摘氏の街宣車は、つばさの党の街宣車に追いかけ回されたらしい。酒井氏の応援に入っていた蓮舫参院議員は22日、X(旧ツイッター)に「警察の対応が遅くて怖かった」と投稿したが、そのような事態を惹起させた責任の一端は立憲民主党にもあると思う。
 また小池百合子・東京都知事は乙武洋匡氏(無所属)の応援をした際、100人を超えるSP(警視庁警護課員)らに守られて演説を行った。これには不公平感が拭えなかった。警視庁警備部警護課には内閣総理大臣の警護を担当する第一警護、衆参両院議長、国務大臣や最高裁長官などを担当する第二警護、国賓や外国の要人を警護する第三警護、政党要人を警護する第四警護というセクションがある。
 警護対象者については、警護要則の中に「内閣総理大臣、国賓その他その身辺に危害が及ぶことが国の公安に係ることとなるおそれがある者として警察庁長官が定める者をいう」と定められている。小池氏に100人態勢の警護をつけながら、他政党にはなし、というのはあまりに極端に過ぎないだろうか。警察庁長官がもっと柔軟に対応しても良かったと思う。
 今回は立憲民主党の圧勝という「これで良いのか」と言わざるを得ない非常事態ともいえる結果に終わったが、これももとはといえば、自民党の慢心が招いた結果ともいえる。安倍さん亡き後、自民党があまりにも膿んでいたのではないか、と自省する声が出てこないのは末期的だともいえる。今後の展開からは目が離せない。   

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