Elementor #16096
文化スポーツライターキリンコ

公園での激走ドラマは、行楽客がいてこそ光る
ポカンと口があいた。10月15日に行われる箱根駅伝予選会。コロナ禍では自衛隊立川駐屯地を周回する無観客レースが行われていたが、今年は3年ぶりに駐屯地を出発して市街地を抜け、昭和記念公園を一周する従来のハーフマラソンが行われる。 あらゆる大会が3年ぶりに通常のスタイルを取り戻していることを実感する日々だ。 ところが開催まで20日をきってから、箱根駅伝予選会は応援自粛の要請が発表されたのだ。しかも関係者の観戦や応援旗も禁止するという、厳しい通達だった。
40以上の大学生およそ500名が一斉に20キロ超を走る予選会には、正月の風物詩となった箱根駅伝とはまた違う迫力がある。各大学の応援団が校旗を振り、保護者やOBがぎっしりとコースを囲む。とにかく大学スポーツ味が強いのだ。
6年前の予選会。スタートの1時間前に現地に着いたが駐屯地のトラック周辺はすでにすごい人だかり。諦めて10メートルほど脇にずれてみると、そこにはウォームアップ中の選手たちがいた。絞り込まれた体つきや美しいジョグのフォームが毎日の鍛錬の厳しさを物語っている。どの大学のどの選手も箱根駅伝を走るのにふさわしく見える。本戦を走るのはこの中のほんの一握りだと考えるだけで胸が詰まった。
「あ、いたいた」「トイレちゃんと行ったかしら」隣のご夫婦は見るからに選手のご両親で、息子の試合を観戦する自分の姿にも重なり、思わず「息子さんですか」と声をかけてしまった。あちらもおそらく私に同じ空気と、そして陸上とは無関係な立場を感じとったのだろう。4年生だが本戦で走る予定はないこと、この大会が最後になるだろうことを教えてくれた。こちらに向かって走り込みをしてご両親の姿に気づいたその選手は、サングラス越しに「後ろの集団をまとめる役だから。そんなに速くはいかないから」と伝えた。期待も心配もしないでという気遣いか。白地に赤いCのマーク。よし、今日は中央大学を応援しようと心に決めた。公園内のコースをもがくように走る選手たちに声をかけながら歩き、順位発表が行われる広場に着くと、ご夫婦は軽く会釈をして関係者の輪の中に入っていった。
2016年10月。泣き崩れる4年生と「先輩に文句を言うような人がいたら、自分が受けて立ちます!」とマイクで叫ぶ1年生の主将。今でも劇的な場面としてテレビに映される、連続出場を87回で途切れさせた中央大の光景を、こんなふうに間近で見る覚悟は全くできていなかった。すぐ近くでは家族連れがレジャーシートにお弁当を広げている。のどかな風景をバックにカメラとマイクに取り囲まれ、壮絶なドラマは撮影の1シーンにも見えた。
休日の公園をテレビでよく見るスター選手が激走する。そんなシュールともいえる光景は予選会の魅力だが、たかが関東大学選手権なのに日本で最も多くの観客を動員するビッグコンテンツとなった箱根駅伝の異質さに重なっても見える。運営するのは大学生。ビジネス価値がどんなに脹れ上がろうと、運営にも出場者にも還元されない。メディアは選手をヒーローに仕立ててファンを煽るが、観客をコントロールする責任は学生にある。まして今も校内外の活動を厳しく制限する大学は多い。本来であれば家族や学校関係者のみで行いたかったところだろうが、その人気ゆえにまず一番身近な応援者たちを切る必要があったのか。観客の統制はビジネスとしてスポンサーに任せる、あるいはあくまで大学間の催しとして内輪でやりきる。そんなわがままな手法をとらなければひずみは増し、やがて箱根駅伝そのものの魅力を損ねてしまう気がしてならない。
関東の選手権と言っても、選手は全国から集まっている。応援のための遠征の準備も進んでいただろう。500人いれば500通りある物語も、テレビの中継にはほとんど映らない。コロナ禍のせいではなく、人気のせいで見守られることなくひっそり始まって終わるだろうそれぞれのドラマを、悲しく思う。
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