悔しがるのもファンは見たい

文化スポーツライターキリンコ

悔しがるのもファンは見たい~町田瑠唯選手WNBA挑戦

オリンピックで脚光を浴びた女子バスケの町田瑠唯選手が、今月開幕したアメリカの女子バスケリーグWNBAに出場している。WNBAに挑戦した日本の女子選手は渡嘉敷来夢選手など4人目だが、合流後3試合目でのスタメン起用は最速だ。1試合18アシストのオリンピック記録をマークしたゲームメイク力に対する、期待の大きさを感じる。

 

けれど今のところ、町田選手らしさはまだまだ出ていないようだ。相手の高い壁に阻まれたり、スピードや意外性に他の選手が追いつかなかったりと、スカッとするような得点シーンが見られるのは稀だ。

 

それでもいい。いや、よくはないけれど、英語力も性格も海外に適性があるようには決して見えない町田選手が、特に身構えることもなく、チャンスだからとシンプルにアメリカ行きを選んだ。それだけで気分がいい。

 

コロナ禍で大会の延期や無観客開催が続き、2020-21年は主要大会や、その代表を決める試合が優先して行われてきた。メダルや出場権を賭けギリギリの思いで臨む選手たちの姿はもちろんすごく魅力的だ。けれど、極限状態でのメンタル不調を目にすることも多く、応援が選手を追い詰めていると感じることもあった。選手はしんどかっただろうが、見ているファンも正直しんどかったのだ。

 

日本女子バスケのWリーグは、コロナの影響で何度も試合が中止になりながらもシーズンを終えた。4月に行われたプレーオフでは、町田選手所属のシーズン5位富士通が、渡嘉敷選手所属のシーズン首位ENEOSをセミファイナルで敗ってファイナルに進んだ。優勝を賭けたトヨタ自動車戦。これで引退となる選手もいて、それぞれ特別な思いを持っていたはずだ。

 

それでも、相手より1歩先を走り、1センチ前に手を伸ばして、何がなんでもボールに先に触れようと床に身体を投げ出す選手たちから溢れていたのは、本当にシンプルな「負けたくない」という感情だった。鬼ごっこをする子どもたちと変わらない必死さを、惜しげもなく見せるその姿が気持ちよくて、ああスポーツ観戦の楽しさの根源は、このシンプルな感情の表出だったと思い出した。

 

負けたくない、という本能のぶつかり合いが感動を呼ぶなんて、考えたらおかしな話だ。でも普段の生活では当たり前に閉じ込めている感情を放出する場面は、芸術、芸能であれ、スポーツであれ、人間にとって必要なのだと改めて感じた。そこには、自由があるからだ。

 

敗戦が濃厚になった試合終盤、町田選手はテーブス監督に「このメンバーで最後までやらせて」と頼んだという。(カナダ人の監督は「替えるわけあるか」と関西弁で答えたそうだ)

 

悔しそうではあったけど、悔しがることすらも楽しんでいたように見えた町田選手。WNBAで30センチ以上身長差のある選手たちに激しくぶつかられながら、思いきり悔しがり、怒り、勝ち誇り、そして楽しんでいるところを見たい。

悔しがるのもファンは見たい”へ1件のコメント

  1. こまった より:

    サッカーとバスケットは、敵からジャマされて球を取られるので苦手でした。この試合を日本で見る事は出来ないんでしょうかね。

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