【銀メダルを手にしなかったあの女子バスケ選手】

文化スポーツライターキリンコ

 【銀メダルを手にしなかったあの女子バスケ選手】

 女子バスケ選手と言って思い浮かぶのは、渡嘉敷来夢選手くらいじゃなかったですか? 身長193㎝でWNBAの経験もある彼女は八村塁選手と同じく「日本代表にいるといないじゃ大違い」の選手だった。ところが2020年12月の皇后杯準々決勝で転倒して、右膝前十字靭帯断裂の大けが。オリンピック絶望的というネットニュースも、現地観戦した準決勝でプレイが見られなかったこともショックだったけれど、自分の出ない試合でチームの勝ちを誰より喜び、大泣き大笑いしている彼女を見た時、オリンピックのことが心配でたまらなくなった。「あーどうか渡嘉敷選手のためにも、女子バスケがオリンピックで頑張れますように」代々木体育館の客席で思わず手を合わせたのを思い出す。
 結果はこの通り、私が祈る必要なんか全然なかった。3ポイントシュートって、緊迫した場面であればあるほどものすごく勇気がいるんじゃないかと思うけれど、彼女たちは3ポイントを躊躇なく打ち続けられるだけの準備を重ねてきた。打ったその数190本。歯車はクルクルといい方向に回り、女子バスケ日本代表は一躍時の人となった。
 5月の代表合宿まで復帰への挑戦を続けた渡嘉敷選手がもしオリンピックに出られていたら、結果はどうだっただろう。アメリカの高身長グリナー選手を抑えて、金メダルを手に入れていた可能性だってあると思う。けれど、トム・ホーバスヘッドコーチの「全員3ポイントを打てるように」という構想とは最後まで合わなかったかもしれないし、渡嘉敷選手にボールが集まりすぎてパスワークが機能しなかったかもしれない。そんなことはもちろん、誰にもわからない。でも今は忘れられた存在になっている渡嘉敷選手のことを、私は心配していない。きっと喜んで大泣きし、大笑いしている。準決勝でENEOSが勝ったあの時のように、悔しさも責任感もひっくるめて喜んでいる。
 メディアで屈託なく笑う女子バスケ日本代表選手だけれど、9月から始まるアジアカップ予選に向けて、日本代表候補はすでに活動を始めている。渡嘉敷選手の名前もそこにある。けがも落選もすぐ隣にある世界で、彼女たちは生きている。生き延びるために準備をさらに続け、その準備だけが彼女たちにヒリヒリした場面でのシュートを打たせてくれるんだろう。そこには私の祈りなんか必要ないってわかってる。それでも3ポイントのたびに「入れ」と祈らずにいられない痺れる試合を、再び観られるのはもうすぐだ。

 【銀メダルを手にしなかったあの女子バスケ選手】”へ2件のコメント

  1. 西村幸祐 より:

    僕は渡嘉敷がいても、怪物だらけのアメリカには勝てなかったと思います。
    まぁ。それでも女子日本代表は最高です。町田に惚れ込んでいますよ(笑)。

    1. きりんこ より:

      ご意見ありがとうございます! おっしゃる通り町田選手のパフォーマンスは圧巻でした。ポイントガードとしては3番手だったのに、大柄な海外選手相手だからこそスピードが活きましたね。かつてカリスマポイントガードとしてワールドカップでアシスト王も獲得した吉田亜沙美選手と今対決したら…考えるだけでワクワクします。

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